さよなら、東京 午前5時、上海空港の到着ロビーを出た。空港の無機質な空気を脱し、アジア的な濃度のむっとした空気にどわっと包まれた。ああ、異国に来たのだ。出口前で捕まえた、少し機嫌の悪そうな運転手のタクシーに男4人で乗り込んだ。 助手席に座った加藤がナンプーダーチャオ(南浦大橋)までと告げた。運転手は怪訝な顔つきで、理解したというようなそぶりをした。 「いやあ、上海着きましたね。いいですね。いつもなら本当は白タクを捕まえるために戦うんですけどね、今日は4人もいるので普通のちゃんとしたタクシー乗りましょう」 加藤は今回の旅行のコンダクターだった。彼は大学の後輩で、現在は広告代理店で働いている。大学生の頃は、目を隠すほどの長さの前髪が激しい鬱屈性を発していたのだが、社会人になってからはきちんと目が見える位置に切りそろえられており、一見健全な人間ふうになったのだが、その実は大変な男なのであった。