「酸素バーナー、黒澤先生の講座は……満員っと」 もう11月も半ばだというのに、麻衣がTシャツ1枚で働いているのにはワケがある。事務所のガラスを1枚隔てた向こう側には、5つの炉が並び、中ではそれぞれ色の違うガラスが真っ赤に溶けている。麻衣の勤務先は、とあるガラス工芸作家のアトリエ兼後継者の育成、それにちょっとした一般向けの講座を開くための、ガラス工房なのだ。もちろん、麻衣自身はアーティストでも何でもなく、工房の事務とホームページ更新が主な仕事だ。今日も、たった今定員になった講座のお知らせを、サイトのトップページに打ち込んでいるところだ。 「藤波さーん」 「あ、先生。どうされました?」 工房の主である作家がニコニコしながら、事務所へやってくる。そしてニコニコしながらとんでもないニュースを麻衣に告げたのだ。麻衣の休日に、工房の主だったガラス作家が集まって決めたこと。それは吹きガラスやバーナーワー