椹木野衣 月評第109回 折元立身「キャリング・シリーズから」展 引かれていたのはなんだったか 「椹木くん、もうこうなったら俺がアート・ママになるよ。だから見てよ」──去年の秋、携帯の電話から折元立身のそんな肉声を聞いたとき、アート・ママこと彼の実母、折元男代(おだい)はまだ生きていた。しかし「みずからアート・ママになるしかない」と決心したように、折元の母は100歳を前にすでに老いを極め、かつてのような共同作業はもはや難しくなっていた。私は昨年「釜山ビエンナーレ2016」に際して、折元に《処刑》の出品依頼をしたのをきっかけに、初めて折元の自宅を訪問。家そのものが巨大なインスタレーションと言ってよい様子に、老いた母の介護と同じく老いゆく自身の創作を両立させる過酷さ、というより、両者が切っても切れない関係にあるのを目の当たりにした。 実際、その頃、折元は重度の痛風で入院を余儀なくされ、満足な歩