宮崎駿『風立ちぬ』が描く「飛行機」の表象は、美しい夢想と醜い現実の二律背反に置かれている。たとえば、カプローニとカストルプの対比を見てみよう。カプローニは世界的に著名な飛行機製作者のイタリア人であり、しばしば堀越二郎の夢のなかに現れる。そこで彼が語るのは、飛行機がもたらす美しい飛翔の夢想である。他方のカストルプは軽井沢に滞在するドイツ人であり、たまたま同宿の堀越二郎と里見菜穂子が交際するにあたって立会人となった。軽井沢で彼が語るのは、その飛行機がもたらすだろう醜い戦争の現実である。本作における飛行機というモチーフは、カプローニ的夢想(美しい飛翔)とカストルプ的現実(醜い戦争)に引き裂かれているのだ。 この分裂を引き受けるのが、本作の主人公・堀越二郎である。子供の頃から飛行機に憧れていた彼は、大学で航空工学を学びドイツへ留学したのち、航空技術者として数々の戦闘機を設計することとなる。説明的な