開始した。さほど汚れていないカストロ(引用者註 飼っている アヒルの名) のプールの水を全部流してしまい、ホースの水を いったん、プール、コンクリートの床、簀の子に勢いよくかける。 三上さんの手元から門扉にかけて、小さな虹がかかると、その 弧の下にアヒルが入ってきて羽を広げて喜ぶのだった。紫がかっ た透明な虹の粒が羽に弾かれ、ぽろぽろとこぼれていった。 (中略)カストロは三上さんの手元に寄っていき、黄色い くちばしを箸みたいに大きく開いて、虹の根本のところを くわえようとしたりする。カストロはこれ以上ない笑いを腹の そこから笑っていた。 (逸見傭『赤い橋の下のぬるい水』)