「医師にずっとそばにいてほしい――」。 東京大学医学部心臓血管外科の教授だった私は、儚くなりつつある命の妻を看病しながら、ただひたすら願っていました。 東大医学部教授の家族ならば、さぞかし充実した医療が受けられるに違いない。普通の人は当然、そう思われるでしょう。しかし、医療の世界は、そんなに簡単なものではありません。東大医学部教授の家族であれ、ひとりの患者であるという事実は変わりません。特別な治療が受けられるわけではありませんし、ましてや病気が手加減してくれるわけでもないのです。 妻の乳がんがわかったのは、彼女が50歳のとき。早期発見でした。乳頭からの血性の滲出を自ら認め、すぐに近くの病院で診察を受け、早期の乳がんだとの診断がくだされました。乳がんは、早期発見であれば死亡率はきわめて低かった。ひとまず安心したのを覚えています。しかし、そうした数字が落とし穴だったのかもしれません。 早速、乳