伊勢神宮―魅惑の日本建築 [著]井上章一[掲載]2009年6月28日[評者]柄谷行人(評論家)■日本固有なのか その通念を否定 伊勢神宮は、その簡素な白木の建物と、式年遷宮(20年ごとに造り替える)で知られている。しかし、これをたんに建築としてだけ見ることはできない。伊勢神宮は明治以後国家神道の中心となったわけで、政治的な意味が今もまといついているからだ。にもかかわらず、それだけで片づけることができない何かが伊勢神宮という建築にある。建築の様式や技術として見た面と、宗教的・政治的に見た面が複雑にからまりあっている。伊勢神宮が建築史学界の争点となってきたのはそのためだ。本書は、これまでの錯綜(さくそう)した議論を根本的に解きほぐし、とらえなおしている。 一般に、伊勢神宮には、仏教伝来以前の日本に固有の建築様式が保存されていると考えられている。このような通念をもたらしたのは、伊東忠太だといって