国境線上の蟹 31 安東嵩史 25 「みんなが恐ろしい」 今日も、アメリカを走る。 ロス・アンジェルス、虚飾と刹那にあふれたハリウッドやビバリーヒルズに背を向けて南へ1時間も行けば見えてくる黒々と青い空の下を。カンザス、冬の陰鬱な曇り空のもと永遠に続くような灰色の大平原の中を。ミシガン、フリーウェイの路傍に一瞬現れてはそのまますっ飛んで行く十字架と廃屋の群れを見やりながら。ニューメキシコ、「この世」という概念が発生するはるか以前から変わらずに存在する赤土の大地を。 「アメリカを知る」とは、いったいどういうことなのだろうか。この国を、いや、この「概念の帝国」がかろうじてへばりついているこの広大な大陸を走り、そして歩くほど、それはわからなくなってくる。 ニューヨーク・シティ、早口で話す人たちと飛び交う黄色いタクシー。エル・パソ、カラフルな喧騒にあふれた国境地帯バリオ・セグンドで縦横無尽に耳をか