※本稿には、実際のDV被害に関する表現が含まれています。 20年ほど前、ある夜のこと 目が回るような忙しいスケジュールをこなし、仕事が終わった。 「あと1時間で帰れるから、何かご飯作っといてほしい」 妻にメールを1本送り、疲れはてた体に鞭打って帰宅する。時間は遅いが、住宅街の家々はまだ遅い夕食の香りが漂い、腹が鳴る。あの家は揚げ物、あの家はカレー。 けれど、我が家の前にたどり着いても、何の香りもしてこない。台所の窓はナツメ球の薄明り。家に入れば蒸し暑いほどに暖房がかかった居間から、バリバリとゲームの戦闘音が響く。 「ただいま。ごはんは?」 「あ、おかえり。てか、帰るの早くない?」 「意外に道が空いてた。ごはんは?」 「お米は研いだよ」 「お米研いで、ほかは?」 「え? まだ?」 またか……。いつものこと過ぎて、文句も出ない。黙って仕事道具を片づけたり部屋着に着替える僕を尻目に、妻はゲーム機
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