第1回 数学書の読まれ方 谷口 隆 専門的な数学書の出版を手がける出版社は何社かあるが,なかでも裳華房は,私たち数学者にとってはもっともお世話になっている版元のひとつである.右下にあるリンクをたどっていくと,多くの定評ある本の名が出てくる.個人的には,私も『数論序説』(小野孝)で整数論に入門させてもらった.このような専門書は数学者の活動の支えになっている.もし裳華房が突如消失でもしたら(?),私たち数学者としてはさぞ困ったことになるだろう. ところでそのような専門的数学書,実は,一般的な感覚からするとやや変わった,風変わりな読まれ方をしている.今回はこのことをちょっとお話してみたい. 何といっても目立つのは,本を読むスピードが極端に遅いことだろう.「1年かけて1冊の半分手前ぐらいまで読めた」なんていうと普通は何かの冗談だろうけれど,実は数学書ではそういうことがあちらでもこちらでも起きている