この写真を見ていただきたい。大きなガラス張りの部屋の中に一人の女性がぽつねんと座っている。部屋の中には調度品があるわけでもなく、女性の前のカウンターに、何か雑多なものが置かれているだけだ。ガラス窓の隅に見える文字から、これは東南アジアのどこかの国なのだという事が分かる。女性は肌の露出が多目の薄着で、無表情のまま、ガラス越しにただ宙を見据えている。…これは、いったい、何なのだろう? 一見、性風俗なのか、と思ってしまう。しかし、こんな中が丸見えの部屋で、風俗の営業などというのも、考え難い。何かを売っているのだとしても、何を売っているのか、まるで分からない。この異様な空間は、写真家が創出した、一つの架空の作品空間なのか?それとも、現実に存在する光景なのか? 瀬戸正人の写真集『binran』には、このようなシチュエーションの写真が多数収められている。その写真はどれも、冷たい光に満ちたガラスの小部屋
