『丸山眞男集』(以下、集)第10巻所収の「映画とわたくし」は映画を素材とした回顧であるが、丸山の発言としてはある珍しいテーマを扱っている点で注目に値する。それは「女」をめぐってである。 江原由美子が指摘するように「丸山の記述の中に女がほとんど出てこない」。「一体、天皇制ファシズムのどこに女は位置づくのか。『女』もまた男と同じ抑圧委譲のシステムの一部に位置づいていたのか」。そして江原によれば、丸山は「日本という均質な空間」即ち「暗黙にジェンダー化された、けれどもあたかもジェンダーなど存在しないかのように置かれた世界」を想定している、という*1。また苅部直も、「どうも、丸山の考える、『人間仲間』をおりなす個人たちの像は、表面は真っ白でありながら文化やジェンダーの異なる色彩が裏にはりついているらしい」と指摘している*2。したがって女性という要素(の欠落)は丸山の思想全体にかかわる射程の広い問題と