誰しも一度くらいは、スポーツで胸を熱くしたことがあるだろう。しかし、その理由を問われても、明確な答えにたどり着くことは難しいのではないか。例えばイチロー選手なら、技術とか、記録とか、勝負強さとか、語るべきことはたくさんあるに違いない。 だが、その核心をきれいに取り出すことなど、誰にもできはしない。多くのメディアは、最大公約数の受け取り手に向かって記事を作る。それが、かえって多くの人に違和感を与えてしまう。ましてや、追悼報道などは「物語」に変質してしまっているケースすらあるのだ。 本書は、ノスタルジアという概念を分析軸として、国民的な人気を集めた三頭の競走馬をめぐる「語り(報道)」を読み解こうというものである。現役当時の報道だけでなく追悼報道を読み比べることで、類書にはない深みをもった内容となっている。 おそらく、競馬ファンなら一文字も読み逃したくないほどハマるだろう。でも題材は、社会現象と