ただ通り過ぎていく時間、取り返しのつかない甘い夏の夢、それをただ眺めていることしかできない無口な少年、ビールと煙草、冷たいワイン、古臭いアメリカン・ポップス、そして微かな予感――。村上春樹のすべてが詰まったデビュー作、『風の歌を聴け』を久しぶりに読んだ。学生時代に戻ったような気分で、ほぼ一晩で読み切ってしまった。 久しぶりというのもあっただろうし、村上春樹が小説家になった経緯や、小説家で「あり続けること」について語り下ろした疑似講演録『職業としての小説家』から続けて読んだというのもあっただろうが、とにかく新鮮で、目の前に果てしない草原が広がっていくような読書体験だった。 もっと自由でいいのだと思えたし、もっと自由であるべきなのだと思えた。そんな気分にさせてくれる本はそう多くはない。 Wikipediaにも載っているかもしれないが、一応、繰り返しておくと、『風の歌を聴け』は、1978年の神宮
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