香苗さんは育休を取ろうとしたものの、自らの立場は契約社員ならぬ契約研究員。通常の育休制度が適用されず、休暇がほとんど取れないという事実に直面する。やむをえず退職を考えた香苗さんだったが、自身が行う最先端医療の研究を病の早期発見・治療に役立てたいという夢があったため、踏ん切りがつけられない。 そんな悩める妻に夫・泰三さんは「自分が2年の育休を取る」と提案した。泰三さんの勤める一流企業には育休制度があったのだ。もちろん、制度があったとはいえ、育休を使った男性社員は当時、1人もいない。風当たりは相当のものだった。しかも、働き盛りの30代が職場を2年も離れれば、積み上げてきたもののすべてを失うといっても過言ではない。 しかし、泰三さんはこう考えていた。 「出世とかはそんなに気にしてなくて、妻がどれだけ仕事が好きかっていうのはわかっていたので。仕事を妻が辞めるのか、こちらが休むのかのてんびんですから