「ねえあれ、あんたのお兄さんじゃない?」 街中で兄を見かけた。私はたいそう驚いた。兄は、上空1メートル前後を水平飛行していた。人ごみを巧みにかわしながらゆっくり音も無く飛んでいた。 「お兄ちゃん、浮いてる……!」 「何言ってるんだ今更、ぼくは昔から外では飛んでたじゃないか」 そう言われてみればそうだった。 「あひゃーん!」 悲鳴が聞こえて目をやると、男子高校生が通行人に向かって包丁を振り回していた。子供が襲われようとしていた。すでに兄は、犯人に向かって水平飛行していた。犯人のわき腹に兄が突き刺さった。子供は助けられた。しかし、兄はその衝撃で空中分解していた。 「お兄ちゃーん!」 兄は死後、紅綬褒章を受章し、ニュース番組やワイドショーで取り上げられドラマ化もされ、日本には空前絶後の水平飛行ブームが訪れた。その結果、衝突事故や水平飛行詐欺などが激増し、私たち遺族はマスコミに叩かれた。それも静ま