古い友人が試験勉強をはじめた。友人は不動産を扱う会社に勤めていて、不動産鑑定士というのを取るのだそうである。記憶力が落ちていて困る、年は取りたくないものだ、などとと言う。彼女の高校時代のあだ名は「人間手帳」である。やたらと記憶力がいいのだ。手帳の大きさが半分になったって試験には通るんじゃないかと思う。 資格をとったら、お給料があがるの。私が尋ねると、たぶんねと彼女は言う。あとは社内転職がしやすくなる。うちの会社は希望を出さないと異動はないし、不採算部署はすみやかに取りつぶされるから、資格のひとつも持っていたほうが有利ではある。そういうのも動機ではあるんだけど、えっと、なんていうか、いい年になったし、業界をまたぐ転職はしなさそうだし、そろそろ何者かになっておこうと思って。 何者か。私が言うと、何者か、と彼女はこたえる。「会社員です」でもまあいいんだけど、ちょっとぼんやりしすぎている。お免状が