「サイエンス・オブ・デザイン」 著者である向井周太郎氏は武蔵野美術大学の基礎デザイン学科の創設を起案した人物である。1967年のことだった。氏は本書において「基礎デザイン学とは、個々のデザイン分野という一本一本の柱を横につないで支える梁であり、それと同時に一本の柱としての全く新しい可能性を秘めた領野である」と説いている。まさに縦割り構造によってカテゴライズされたデザイン産業や、職業訓練化されたデザイン教育ではない、デザインを1つの専門領域に特定しない教育と研究を、むしろ「問題やプロセス全体の総合性にデザインという専門的特質がある」という考えによって実践してきた。「基礎デザイン」という言葉から、当初、その教育が専門教育の前段階のベーシックデザインであると誤解されるふしもあったようだ。 氏は今年3月に同学科を退官したが、幸運にもその最終講議を聴講する機会を得て、その多次元な思考のパラダイムを