吾輩は無職である。金はもう無い。だが、欲をいっても際限がないから生涯親の脛をかじって無職の人間で終るつもりだ。 本文 吾輩は無職である。金はもう無い。 どこで職を失ったかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした職場でワンワン泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて職場というものを見た。しかもあとで聞くとそれはブラック企業という職場中で一番獰悪な部類であったそうだ。このブラック企業というのは時々我々を捕えて残業代を払わずに働かせるという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。ただ彼の掌中にあって終電近くまで働かされた時何だかフラフラした感じがあったばかりである。ここでブラック企業の様子を見たのがいわゆる職場という物の見始であろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一、上司はいつもいらだっていてすぐに怒鳴り出してまるで薬缶だ。