「博物館にて」村崎懐炉 博物館に行ってブラキオサウルスの骨格標本を見上げていると、その年老いたブラキオサウルスは物静かに語るのであった。 昔は良かった。 こんなに狭々としていなかったし。 自由闊達としていたものだよ。 かつて彼にも同族の友人がいた。 彼らは午後の安らいだ時間を散歩や読書に充てて楽しんだ。時に詩論を討議し、熱を帯びて熱い紅茶の入ったソーサーを揺らした。 ブラキオサウルスたちはのんびりとしているので彼が友人と思っていた個体は彼より10歳も年上であったということ。 そして10歳年上であるということは少なくとも彼より10年は早く死期が訪れるだろうことに彼が気づいたのは、友人が死に瀕したその日である。 彼は友人のために樹木の枝葉を口元に運んだ。 友人は静かに笑っていた。 苦しくないか。 そう尋ねた。 苦しくはない。 友人はそう答えた。 何かして欲しいことはないか。 そう聞くと 友人は