『三酔人経綸問答』において、人類の理想を語る洋学紳士君に引きつづいて演説の二番手を務めるのは、豪傑君です。彼のロジックは、洋学紳士君に勝るとも劣らない極論に到達することになります……。これから、彼の言うところに耳を傾けてみましょう。 まず、豪傑君は、洋学紳士君の理性にもとづく平和主義を一笑に付してしまいます。国際政治のリアルを見てみるがいい。ヨーロッパの国はこぞって軍備を増し、他国を侵略しつづけているではないか。人間が悪で、国がくだらないことをしているのは、どうにもならない現実なのだ。そう語ったうえで、豪傑君は次のように言い放ちます。 「こんなときに、ちまちまと自由、平等などという理想を唱え、人類はみな兄弟という情にかられてしゃべり散らすなど、浮世ばなれもはなはなだしい。」 豪傑君は、現代を生きる私たちの誰もが口にしないことを言います。すべての人間にはそれぞれの楽しみがあるとするなら、国に