俯瞰の価値:リアル書店の比較優位と未来 (『小説トリッパー』(2004 年 秋号) 山形浩生 イタロ・カルヴィーノ『冬の夜、一人の旅人が』の冒頭に、本屋で買い物をする場面が出てくる。本屋に入った瞬間、四方八方から各種の本が迫ってくる。前から読もうと思っていた本、いま急に読みたくなった本、読むかどうかはわからないけれどとりあえず手元に置いておくとよさげな本。ついでに、買うかどうかわからないけれど、とりあえず見てみたい本。そうやって襲ってくる本の群れをかわしつつ、主人公は目的の本を買う。 本屋の機能は、昔は本を買うところだった。それは今も続いているのだけれど、それがだんだん変わりつつある。それはオンライン書店の出現によるところが大きい。ぼくは平均的な日本人の数十倍本を買うけれど、買うだけであれば、物理的な本屋である必要はない。というか自分が何を買うべきかわかっているなら、オンライン書店のほうが