碁敵の別役実に勧められて読んだとき、つまらなかった。こんなことで「粋」が説明されてたまるもんかよと、すぐに思った。早稲田小劇場が生まれる前後のころである。 いまとなってはそのときの読感を正確に思い出せるわけではないが、薄っぺらなんじゃないかとか、和の美学の頓珍漢のほうに入りこんで理屈っぽいという感じだったのだろうと憶う。それまでぼくが生意気に感じてきた「粋」とは違うのだ。 それがいつだったか、九鬼の『偶然の諸相』を読んで、格段の新鮮なものを感じた。あいかわらず定言的偶然とか因果と目的によって偶然を分類しているところなど、少しうるさいのだが、ここまで「偶然」にこだわることが一筋縄ではないというのか、只事ではないと気がついた。 そこで、岩波の全集をとりよせてあれこれ拾い読んでみると、おお、おお、なんだ、胸が詰まるほどに、いい。最初に『風流に関する一考察』や『日本詩の押韻』を読んだのだったと思う