そこで翻訳ものの小説を一冊、買った。 その小説は日焼けし、随分と痛んだ状態で、投げ売りのように100円で売られていた。 作者の名前もまるで聞いたことがなく、ただ作品名と雰囲気が何となく良いなと思って手に取り、購入したに過ぎなかった。 店を出るとアーケードの下、若干の寒さを覚えてポケットに手を入れる。 それでも右手のみを外に出し、その手はスマホを握っている。 今しがた買った小説をちょっと調べてみるか。 軽い気持ちで検索をかけるとすぐに見つかった。だが感想は何処にも書いてない。 全くだ。 買った小説の感想はいくら検索をかけても見つからない。 存在しなかった。 その事実が悲しい反面、嬉しくもあった。 ネットは万能じゃない。けれど、だからこそ価値を高めてくれるものもある。 私はきっと、誰も知らない物語をこれから知るんだろう。