英国にある、施設・ヘールシャム。幼少時から共に育ってきた生徒たちが、数人の教師と暮らしている。全寮制の学校かと思いきや、描かれる空気には微妙な違和感がある。 まず彼らには家族が見あたらない。孤児かというと、そういうわけでもなく、その「存在」の感触に、言葉では、説明しにくい不可解さが漂う。望めばいつの日か、好きな人と暮らす程度の可能性はありそうだが、どうやら子供は産めないらしい。そんなことってあるだろうか? わたしたちが普通に使うような意味での、「将来」とか「未来」あるいは「可能性」などという言葉が、彼らにはどうも、うまくフィットしないのだ。 若者たちは施設にいるあいだ、仲間たちと密接な関係を育み、詩をつくり絵を描く、一見幸福そうな日々を送る。だが施設を出たあとは、「介護人」あるいは「提供者」となって、孤独な生活を強いられるようになる。誰を介護するのか、何を提供するのか。すべては明確に説明さ