その時々、あるいは年年で、好きなタイプの人間というものは違う。たぶん。 40歳を過ぎた頃、この年にして、ようやくというか、これぞ理想の男、という人に巡り合った。フィリップ・マーロウ。彼を知った時、私は何か、自分の人生がひとつ打ち止めになったと思った。 どこが好きかと問われれば、躊躇なく、「全部」と答える(子どもか)。 実は、ミステリ好きでありながら、ハードボイルドには長らく抵抗があった。なぜなのだろう。だからと言って、本格物を偏愛しているというわけではないのに。おそらく、私の勝手なイメージ―――安っぽいアメリカ映画、やたらにドンパチを繰り返し、主人公の探偵は酒も強けりゃタバコもやる、すごい車を乗り回し、女には手が早く、金髪の美女を抱き、そして必ず絵に描いたような悪玉(ステレオタイプの巨漢)が現れる――まあざっとこんな偏見を持っていたのだ。 だから、たとえば、今ではもう古くなってしまったハヤ