『現代英語教育』5月号・特集「伊藤和夫」の業績、所収 二つの頂点 ―『英文解釈教室』と『ビジュアル英文解釈』― 入不二基義 序 知性と暗闇 伊藤和夫先生が他界する一週間前、お茶の水・杏雲堂病院の一室で、「死について、今はどんなふうに考えていますか」という私の問いに、先生は「死は凝固だと思う」と語った。近づく死の足音に耳をかたむけている先生に対してこそ、死についての考えや心境を私はたずねてみたかったのである。もちろん、先生と私がともに哲学徒であるからこそ、こういう会話が成立したのだと思う。「凝固」ということばによって先生が考えていたのは、ふわふわした意識や解釈が、どうしてもそこから跳ね返されてしまう「存在 X」のことのようだった。そして、1997年1月21日、先生は凝固し「存在 X」へと帰還した。 オウム真理教の事件が起こった時のことだが、飲み屋で先生と話しているおり、周囲の人たちは、テレビ