まるで映画のワンシーンでも見ているかのようだった。 夕闇に染まるブルペン、ジャージ姿の大男がマウンドに立つ。両腕を揃えて天に掲げるような特徴的なワインドアップから、捕手に向かって軽く左腕を振り下ろす。球速にすれば80キロにも満たないようなスローボール。それなのに、ボールにはしっかりと回転がかかっており、捕手のミットを「ドスン」と叩く。 ブルペンの脇でトレーニングしていた10人ほどの高校生が、一斉に手を止めて大男のキャッチボールにじっと見入る。誰も言葉を発しない。ただただ静謐(せいひつ)な時間が流れていた。 球児たちの視線に気づいた大男は、苦笑しながらこう言った。 「ごめん、ごめん。3年ぶりだからまだこんなボールしか投げられないけど、あと2、3カ月もすれば、お前らよりいいボールを投げるようになるから」 山本昌コーチ(写真中央)の話を熱心に聞く日大藤沢の選手たち 大男は8月で53歳になろうとし