森田童子。本当に不思議な歌手だと思う。 「友人の自殺をきっかけに歌いはじめた」という彼女の伝説、これが本当なのかどうか、それは、定かではない。 ただ、彼女の歌には、そう思わせる説得力があった。 彼女の歌は、すべて葬送曲といっていい。 失われたものを、人を、時代を、彼女はただひたすらに思い、「おやすみ」と歌う、彼女はそういう歌手だ。 しかし、どんなに悲しくとも、弔いは終わり、残されたものは日常に戻るように、わたしたちは彼女の歌を、いつかとめなければならない。 私たちは、どんなに悲しみに暮れようとも、彼らと道連れになるわけには、いかないのだから。 彼女は、いつか歌を歌いやめなくてはならない。そういう歌手でもあったのだ、と、思う。 それは彼女が一番よく知っていたことだろう。 私たちのコンサートが不可能になっていく様を見て欲しいと思います。 そして、私たちの歌が消えてゆく様を見て欲しいと思います。