立花学園の野田信二郎君(3年)は叫びながらボールを投げた。気合の入った声とは裏腹に球はふわっと緩い放物線を描いた。バットは空を切りミットへ吸い込まれた。 3月。後の春季関東大会に出場する甲府工(山梨)と練習試合で対戦した。1死満塁。打席は甲府工の5番打者。ピンチだ。しかし、野田君は焦らなかった。結果は空振り三振。魔球「ライアーボール」が決まった瞬間だった。次打者も内野ゴロに抑えた。勝負どころで、強打者にこそ効く。試合は敗れたが、手応えはつかんだ。 もともと野田君は4番手あたりの目立たない投手。速球は120キロも出ない。そんな野田君に転機が訪れたのは昨秋。ブルペンで投げていると、押部孝哉監督が後ろに立った。「魔球を教える。名はライアーボール」 投げ方はいたって簡単。5本の指で球をわしづかみにする。そして、リリースの瞬間、指を開く。ボールは緩い緩い放物線を描いて、やっと捕手のミットに届く。80