その小さな古書店にはだいたい十日か二週間おきに訪れている。ほんとはもっと頻繁に行きたいところだけれど、在庫が入れ替わるペースや多少気まぐれな営業時間のせいで、不可抗力的にそのくらいの間隔に落ち着いたのだ。 五十才台半ばくらいの主人がいつも悠然とカウンターの中に座って、傍らのパソコンをいじくったり、時々電話でかかってくる注文や問い合わせの応対をしている。客が店内にいるあいだはせわしく立ち働かないのがポリシーなのだろう。掃除や棚の整理はいつも行き届いている。きわめて小さな音量でクラシックがかかっているけれど、エアコンの音にほとんどかき消されて、交響曲なのか協奏曲なのか室内楽なのかさえ、ぼくの耳では判別できないくらいだ。 映画、演劇、古い芸能関係の書物が主人の専門らしく、もっとも充実している。選り抜かれた文庫本や国内外の現代文学も若々しいセレクション。音楽やアート関係は在庫数こそ少ないが回転は速