愛されることは幸福ではない。愛することこそ幸福だ――。童話集『メルヒェン』に、そう記したのは、ノーベル文学賞作家のヘルマン・ヘッセである。 「こんなに愛しているのに、なんで……」 今際(いまわ)の際に言い残した被害者は、果たして幸せだったのだろうか。 大阪市淀川区。阪急線十三(じゅうそう)駅の周辺には、ラブホテルがひしめく一角がある。事件は、そこに建つ賃貸マンションの一室で起こった。 捜査関係者が言う。 「10月12日の早朝5時47分のことでした。男の声で“友人を包丁で刺した”と119番通報が入ったのです。警察官が駆けつけると、部屋のリビングには腹から血を流している男性の姿がありました」 倒れていたのは、加我(かが)健太さん(24)。その横に通報の主である、もう1人の男の姿があった。 「凶器は刃渡り15センチの文化包丁で、床の上に落ちていました。男がその場で刺したことを認めた