「何という素晴らしい眺めだ。このままにしておくのは惜しい」。終戦間もない一九四八年、高山商工会議所の常務理事だった故三島栄一は、新穂高温泉の露天風呂から抜戸岳(二、八一三メートル)の神々しい山容を見て、奥飛騨の観光開発に取り組む決心を固めた。そのいきさつを回顧録につづっている。 三島が感動した絶景は今、新穂高温泉と西穂高岳中腹を結ぶ新穂高ロープウェイで堪能できる。ゴンドラの高度が上がるにつれ、眼前に迫る北アルプスの荒々しい山肌。だが、当初頭に描いたのは、穂高連峰を越えて上高地へと降りる壮大なルートだった。