あの時ビルがあんな風に粉々に崩れるなんて誰も思ってなかった。消防士にもビル全体が崩落寸前であることなんて伝わっていなかったし、退去命令も伝わらなかった。彼らがおそれを知らずに勇敢に振舞った理由は簡単だ。彼らは単に「知らなかった」のだ。彼らはアメリカを救った英雄というよりは、その他の死亡者と同じ、単なる犠牲者に過ぎない。 一方テロリストは違う。彼らは自らの大義のために命を賭けた。自分たちがどうなるか、十分に知りつつもそれに賭けたのだ。とすればソンタグが語ったようにそれを「臆病」と形容することは出来ない。テロリストこそ自分たちが信じるものに、その「道徳的正しさ」はさておき、あえて「殉じた」からだ。 アメリカが「ワールドトレードセンター」を語る際に「テロvs英雄的な消防士」の物語を妄想してしまうのは、おそらくそうでもしないと、テロリストと釣り合いが取れない、とアメリカ人が無意識に考えてしまってい