当時、京都には、妓王、妓女《ぎじょ》と呼ばれる、 白拍子《しらびょうし》の、ひときわ衆に抜きん出た姉妹があった。 その母も刀自《とじ》と呼ばれ、昔、白拍子であった。 清盛が目をつけたのは、姉の妓王で、片時も傍を離さずに寵愛していた。 おかげで、母親も妹も、家を建てて貰ったり人にちやほやされて、 結構な暮しをしていた。 白拍子というのは、鳥羽天皇の時代に、男装の麗人が、水干《すいかん》、 立烏帽子《たてえぼし》で舞を舞ったのが始りとされているが、 それがいつか、 水干だけをつけて踊る舞姫たちを白拍子と呼ぶようになったのである。 京の白拍子たちは、玉の輿にのった同性の幸福を羨やんだり、ねたんだり、 中には、せめてその幸せにあやかりたいものと、妓王の妓をとって、 妓一、妓二などと名前を変える者まで出るほどの評判であった。 その間にも、月日はいつか過ぎて、三年ばかり経った頃、 加賀国《かがのくに》
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