東京・銀座『美食倶楽部』―。 椀方を務める良三くんが、海原雄山に言う。 「先生、長野から新そばが届きましたので、今日の昼はそばを打ってみました。」 「ほう 長野の新そばか。」 雄山、うれしそう。 「ふむ、新そばらしい良い香りだ。」 差し出す良三くんもうれしそう。 長野から届いた新蕎麦で、良三くんが打った蕎麦。 新蕎麦の時期の打ちたての蕎麦。贅沢である。 しかし、不穏な空気だ。 雄山、怒りの表情。 ねぎと山葵の乗った皿を持ち上げて― ガツ 「あっ!」 ! 何が何だか訳がわからない、という表情の良三くん。 「せ……先生。」 「なにか私に落ち度が……」 ズウー 無視して食べる。 ひどい話だ。 雄山を怒らせたのは、ねぎと山葵である。 「この大たわけが!」 良三くんを罵ったあと、雄山はこう続ける。 「新そばの香りと、ワサビの香りとどちらが強い?新そばの微妙な味わいと、長ネギの味とどちらが強い!?」