部屋で沈んでいても仕方ないので過去を振り返ることにした。 物心ついたときにはピアノを弾いていた。三歳の僕が鍵盤の前で笑っている写真がアルバムにあるので、そのころから鍵盤を叩いていたことになる。僕の先生は、どこかの音大をリタイアした人だった。致命的に集中力の持続が出来ない、決定的に練習が嫌いだった僕をあの手この手で鍵盤の前に座らせることに成功していた。僕の抵抗は彼女の前では意味を為さなかった。たとえばこうだ。「よしふみクン(仮名6歳)の好きなものは?」「オッパイ!」「じゃあ鍵盤を先生のオッパイだと思って触れてごらんなさい」「先生のオッパイヤダー」「それならこの前レッスンで会ったマリナお姉さんのオッパイだと思って触るの」「触るー。黒いトコロはオッパイの先っちょだあ」 先生は大好きなお姉さんのオッパイだと思って力を抜いて鍵盤にふれなさい、とだけ仰ってソファに座り紅茶を飲みながら僕のピアノをいつも