僕は小さな食品会社の営業課長。先月、ある朝突然に、隣の部署の人間が三人退職した。弊社は沈没船から逃げる鼠よろしく、人材の流出が止まらない状況。人手不足。おかげで彼らの仕事が引き継ぎもなく僕に回ってきた。事業所の管理。マネージメント。それ以来、本業の営業に加えて、慣れない業務に追われる日々だ。 すぐにある事業所の数字がおかしいことに気づいた。小さな飲食店。前々月末の数字と前月頭の在庫があわない。追っていくと半年ほど前から数字がおかしい。売上はほぼ横ばいなのに労務費や光熱費が上がっているのも不自然だ。前任者の怠慢。それから横領。不正のにおいを感じた。監査部に報告するか迷ったが、先ずは現状を把握しようと当該事業所に赴いた。 営業の僕はその事業所のスタッフに顔を知られていないのを利用し、客として店に入りチェックした。食材を過度に使用していないか、オペレーションの無駄はないか、云々。適正だった。客席