鷲田康 = 文 text by Yasushi Washida photograph by Shigeki Yamamoto 「それはムリやろ……」 ヤクルト・宮本慎也内野手が思わずクビをひねった。 「いや、ホンマですよ」 こう周囲を見回したのは、西武の中島裕之内野手だった。 昨年の北京五輪の直前合宿中のある夜だった。練習が終わって壮行会と称した内輪の食事会での話だ。焼肉をつつきながら話題は自然と打撃論へと発展していった。宮本を絶句させた中島の天才的打撃術とは。 そのときだ。中島がこんなことを言い出した。 「ボクは崩されたときに自分のスイングを変えるんじゃなくて、体を合わせていって最後に“あそこに落とそう”って右手の押しで調整しています」 その言葉に即座に宮本が返したのが「ムリやろ」というひとことだった。 宮本いわく、崩されてもバットの角度で打つ方向は決め