長い時間をかけて心に染み入る文芸作品が、困難を克服するヒントを与えてくれることがある。東日本大震災からもうすぐ半年がたつが、被災地でも書籍は順調に売れているという。喪失感と閉塞(へいそく)感にとらわれた震災後の心に、どんな本が響くのか。ブックディレクターの幅允孝(はば・よしたか)さん(35)に選んでもらった。(海老沢類) 「震災後、詩が読まれている。行間を埋め込める余白の大きさと、どこから読み始めてもいいし、いつでも読み終われる気軽さが一因だと思う」。幅さんが特に注目するのは戦災や困窮の時代を生き抜き、生活者として詩を紡ぎ続けた女流詩人たちだ。中でも石垣りん(1920~2004年)や茨木のり子(1926~2006年)、1996年にノーベル文学賞を受けたポーランドの女性詩人、ヴィスワヴァ・シンボルスカ(88)の作品を挙げる。「詩人でも、いわゆる“言葉遊び”に興味がない人たち。みな目の前のこと