『デリダで読む千夜一夜』再読。前半のデリダの「範例性(exemplarite)」概念についての整理も大変勉強になりましたが、最も目から鱗が落ちて今現在の関心にもジャストヒットだったのが、後半の「肉体的にも虚弱で、知的にも凡庸かあるいは周囲よりも劣った人物こそ『千夜一夜』のヒーローたる資格をもつ」(439)―つまり、「『千夜一夜物語』の各話男性主人公たちのヘタレ・ボンクラぶりは異常」という指摘でした。 ホメロス『オデュッセイア』のオデュッセウスのキュクロープス退治の挿話と、『千夜一夜』のシンドバード(“船乗りシンドバッド”)の第三の航海中の一挿話が、ほとんど同じプロットをもちながらも、卓越した才知を駆使して、キュクロープスを打倒し、その洞穴からの脱出を果たす「知のヒーロー」オデュッセウスのに対し、シンドバードのほうは人喰い巨人に捕らえられた「わたくしたち」一行の中に埋没した存在、しかも知力・