広島県高田郡甲田町にある糘地(すくもじ)という地名について、「糘」という字は、地元の庄屋が造ったという話が伝えられている。スクモは、関東から西の本州と四国において籾殻を指す方言であり、米にとっては家に喩えることができるためにこのように造られたとされる。それ自身は史実ではないとしても、そうした意識の存在自体に意義を読み取ることができる。識字者であった庄屋は、村民の子供に対しても名付けを頼まれて行うことがあり、その命名に際して『節用集』を繰ったことが川柳などにいくつも詠まれていた。 口承されていた地名をいざ文書に表記する時にも、同様のことが行われたのであろう。当時、ほとんど語釈や文法事項の解説を持たなかった国語辞典に求められた役割は、漢字による表記を確認するためのものであった(今でもそういう傾向があるとの利用者アンケートの集計結果を見たことがある)。漢字は仮名すなわち仮初めの文字に対する真名つ