『1000の小説とバックベアード』を読みながら、小説の新しさとは何なのだろうと思った。“書き尽くせ、たたき尽くせ、壊し尽くせ! こんな世の中も、文学も。現実を駆逐した先にしか、僕らの世界は来ないのだから”とは、佐藤友哉の前作『子供たち怒る怒る怒る』のコピーであり、実際その威勢のいい言葉通り、すさまじい“駆逐”ぶりだった。だが一方で物足りなさもあった。アメリカ文学の狂犬、ジェイムズ・エルロイの小説と比べると暴走ぶりが足りない。 というと佐藤友哉の愛読者は首を傾げるかもしれない。『子供たち怒る怒る怒る』では近親相姦、少女への集団レイプ、学校内での殺戮の嵐、死体凌辱など、殺人と暴力がエスカレートし、あらゆる倫理を蹴散らしていたからである。 たしかに題材的にはそうなのだが、佐藤友哉もまた若い作家たち(とくにライトノベル出身の作家)の特徴的な文章、すなわち文章の密度よりもスピードを優先する記号