〈人種〉の原理 この生‐権力の社会は、人間の生の尊重を謳う社会であるが、この社会の権力は自己矛盾を抱えているようにみえる。広島の原爆が象徴的に示したことは、人間の生を重視することを原理とするはずの社会が、一挙に数十万の無辜の民を殺す社会でもあるということだった。 原爆を製造する社会、それは殺害する権力の社会であり、生を破壊する社会である。この社会はまた、遺伝子操作や病気の治療という名目で、過剰に生を破壊する物質を作り出す社会である。フーコーはこの物質を「普遍的に破壊する制御不能のヴィールス」と呼んだ。これはエイズを指した言葉ではないが、生のために利用されるはずの科学的な手段が、遂に多数の死を生み出すという現代社会の縮図がここにみえる。 それではこの生‐権力は、どのようにして死の権力に変貌するのだろうか。生を謳う権力はどのようにして、敵だけではなく、自国の市民たちに死を命じ、殺し、相手を殺戮