1.角栄の夢みたこと 政治は二つの側面を持っている。ひとつは、国のあるべき進路を決め、そのために意志決定をするということ。これを政治の公的側面と呼ぶ。もう一つは、構成員のあいだの利害の調整である。これを政治の私的側面と呼ぼう。 田中角栄はこの両面において、よきにつけ悪しきにつけ傑出た政治家だった。そこで、今日は彼の政治家としての歩みを、公的側面から見てみよう。角栄は政治家として、どんな理念をもち、どんな政策を持っていたか。また、そうした理念や政策や、政治家としての信念はどこから生まれたかということである。そのためには、彼がどんな生い立ちを持ち、どういう経緯で政治家を志したかを見ておかなければならない。 田中角栄は大正7年5月4日に、新潟県刈羽郡二田村の古い農家に生まれている。高等小学校を卒業した昭和8年ころは不景気まっさかりで、適当な仕事がなかった。そこで、土方になる。収入は一日50銭