近年、織田信長研究の概説書が手頃なサイズで次々と出されているが、本書もその流れに乗って2014年6月に発売された一冊である。信長に関しては基本的にスタンダードな記述で手堅いが、本書が特徴的なのは、著者が安土城の研究者であるがゆえに、信長による近江支配と安土城について焦点があてられていることだろう。『信長の近江侵攻以後、近江がどのように変わり、どのように変わらなかったのか。近江の中世から近世への過程を辿る』(P7)ことが信長の実情を描くことと並ぶ本書のテーマであるとしている。この近江支配に関する記述がとても興味深かった。 群雄割拠の近江戦国時代の近江は、他国にみられるような統一して専制的な領国支配を行う戦国大名が登場せず、北近江で浅井氏が台頭し、南近江の守護六角氏と対抗、さらに西近江には室町幕府奉行衆である朽木氏ら高島七頭と呼ばれる国人連合が両氏から自立して勢力を保ち、これとは別に一向一揆勢