「きまぐれ遊歩道」(星新一著・新潮文庫)より。 【「ロマンス」という項より。 サラエボは現在、ユーゴスラビアの都市。1914年の6月。この地でオーストリア・ハンガリー帝国の皇太子、フランツ・フェルディナントが暗殺された。 このハプスブルグ家は、ルイ16世の王妃のマリー・アントワネットや、ナポレオンの2番目の妃のマリー・ルイーズも一族。 フランツは子供の時からおとなしく、孤独を好み、聖職者に教育され、まじめな性格だった。宴会があっても、夫人と会話をかわすことがない。30歳を過ぎても独身。 候補として、何人もの王女の名があがったが、その気にならない。皇帝は伯父に当り、その息子の自殺、つづいてフランツの父の死。それで皇太子になったという立場を考えてか、ウィーンの宮廷生活をきらってか、各説ある。 そのうち、フランツはフレデリック大公の家を、しばしば訪問するようになった。王女が多くいる。だれかを好き