伝説のデパートマン 実は、祖父母と接した記憶がほとんどない。「じいちゃん、ばあちゃん」というと、ぼくには何だか遠い存在だった。 そのせいか、「祖父母ほど歳の離れた人」に惹かれるところがあって、学生時代に親しくさせてもらった人にも「不思議なおじいさん」が多かった。 某有名デパートの接客係を長く務めた「Tさん」もそうで、これまた素敵なおじいさんだった。何やら業界では伝説的なデパートマンだったみたいで、居酒屋にいくと「もう時効だから」なんて言いつつ、思い出に残るお客さんの話をしてくれた。 三島由紀夫はいつも素肌に革ジャンだったとか、坂本九が亡くなる一週間前にラウンジで一緒にコーヒーを飲んだとか、そんな話がたくさん出てきた。「レコーダー回しとけば良かったな」なんて気もするけど、ぼくの経験上、こういう話はレコーダーを回すと出てこない。世の中には「残そうと思うと、残せないもの」があるのだ。 身体が叫ん