仏教のキーワードのひとつに「空」(くう)がある。般若心経の一節、「色即是空 空即是色」にも出てくるあの「空」である。 仏教関係の書物を読み始めたとき、これがさっぱりわからなかった。しかし、ひょんなことからわかってきた。実際には、「空」がわかるためには、「自性」(じしょう)・「縁起」をわかる必要がある。 この3つが、同時にわかったと思えたのは、ナーガールジュナの『中論』をはじめとする、彼の一連の論文を読んでいるときであった。ナーガールジュナ(Nagarjuna:龍樹)は、釈迦の死後約500年ほどしてインドに現れた。(西暦50年から150年頃)大乗仏教に哲学的基盤を与え、後の仏教書で、彼の影響をうけていないものなど、ひとつとしてないといってよいほど、大きな影響を与えた人物である。ただ、彼の言っていることはどれも難解で、特に、独特の論理展開に慣れないと、詭弁を弄(ろう)しているとしか思えない面が