著者を投影したとおぼしき習作「プウルの傍で」(『中島敦全集3』所収)の主人公・三造は、17歳のときにやって来た2度目の継母に激しい嫌悪を覚えます。 中島敦自身も産まれてすぐに母親に逃げられ、継母の虐待を受けながら育ち、2人目の継母との仲も良好とは言えませんでした。 が、やがて、その女の大阪弁を、また若く作っているために、なおさら目立つ、その容貌の醜くさを烈しく憎みはじめた。そして、彼の父が、彼なぞにはついぞ見せたこともない笑顔をその新しい母に向って見せることのために、彼は同じく、その父をも蔑み憎んだ。その頃五つ位になっていた腹異いの妹に対しては、彼自身に似た、彼女の醜い顔立の故に、之を憎んでいた。最後に、彼は、彼自身を――その醜い容貌を――最も憎み嫌った。近眼でショボショボして、つぶれそうな眼や、低くて、さきの方ばかり申しわけのように上を向いている小さな鼻や、鼻より突出している大きな口や